君へ
結城 森士

君の部屋から僕の部屋に
帰宅するまでの1時間半
電車の窓を左から右へと
流れていく夜景とともに
今日一日の出来事が
左から右へ流れていく

それは、たとえば
君が部屋の中で
うとうとと眠りに入っている間
部屋を覆う薄桃色の光が
少しずつ、少しずつ
闇に変わっていく30分間の出来事

僕は
君の唇の湿度や
感触や
透明感
君の瞼の形や
髪の色や
服の柄を
ぼんやりと思い出しながら
失われていく光に取り残されていた

気がつくと
闇が君の顔を隠していて
君の頭を支えていたはずの
僕の右腕は感覚を失ってしまい
不確かで、おぼろげなこの時間の中で
君の息遣いだけが
ハッキリと聞こえる

いつまでも耳元に蘇る

そして僕はまた気がつく
隣で寝ているはずの君はいない
右腕にあるはずの君の顔はなく
僕は終電で一人
君の輪郭を思い返している

夜景が遠ざかっていく



P.S.乗り越して終電を逃しました


自由詩 君へ Copyright 結城 森士 2009-04-23 02:44:35
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