すべて取り違えてみた声と体
水町綜助
夏の日が薄紫色に
透けて近いので
君になにかを書きます
花が開いては
落ち
黒い道路を汚しては
それをふまないよう
ふまないよう
すこし飛ぶように
歩き
振り向いたなら
季節はもう見えないでしょうし
さみしかったなら
それが季節の名残でしょうか
それとも体温の名残でしょうか
脱ぎ捨てたセーターを
うつぶせに
その匂いを胸一杯に吸い込む
なんて言いながら
僕はセーターなんて持っていないから
その午後は全てでっち上げの15:30でした
西の窓から
乾いたビールがなみなみと注がれて
天井まで満たしていく
、ドプン、。
と耳の中に音が聞こえて
僕はのどの奥からコポリとひとつかみの気泡をだす
ひしゃげて
たわんで
昇っていく泡が
体中に
気泡がついているようで
きもちいい
そりゃあかげりある東の壁は
当然汗をかいているでしょう
あすの朝をまちな
僕、亀裂走ったビルの裏側を眺めて
僕、晴天の夕立に埃舞う
ぼた 音もなく土煙
ぼた 音もなく土煙
ぼたぼたぼた 土煙
ぼたぼた ぼたぼた
もう音しか聞こえない
今日は一日雨なんか降らなかった
*
あれどこにしまったっけ
あれ、
*
稲妻が見えて
音が鳴らなかった山村
水田の中央で
ヤマカガシを見た
黒い体に赤いハンテン
こいつは咬みはしない
首筋の裏から毒を出すんだ
透明な淡緑色の稲がいちめん
回転して広がる里山の窪地で
遠く空砲の音が響いて
かかしはそのまんまカラスに舐められている
すべて似せた恐怖が
夏の僕に襲いかかり
僕は ぱたり ところんだ ヤマカガシは咬む蛇だった…
ちょうどのぞき込んだ水路の奥の 毒も飛ばす…なんてことだ…
針穴ほどの光が恐ろしかった夜空
その夜の中に
そんなピンホールから刺す光が無数で
縦じまの果実の皮を打ち捨て
頬には果糖のべたつきがあって
皮膚をひきつらせていた
口を一度大きく開いて
あくびのようにひらくと
涙がでた
突っ張った肌を伸び切らせて
ゆるめてみただけなのだ
それで泣くなんて
どういうことだ