真空蒸着 1.01
竜門勇気


窓覗いて 暫くしたら
イオンゲージを監視
ピラニが4.0*10^4乗Paを指したら
そろそろ君の出番だ
後はメインバルブが開くだけ
そして電離真空計は跳ねて

チャンバーは悪くない
防着板も洗浄帰りのピカピカの奴さ
クライオポンプが静かに唸りだす
ウェットポンプは穏やかに止まる

今日の天気は晴れ 外気が乾燥してる
こういう日は空調も調子がいい
室温も湿度も理想値と5%も外れてないし
超純水もいい値だったし
ツーリングも録りたてだし
クリスタルも5mhzだし
なにしろ蒸発源も新品なんだ(AUも!)
きっと次にお目にかかるときは
俺の表情もお前も綺麗に輝いてるだろう
そう!例えリペア品だったとしても!

再生したての
クライオポンプは
20分もかからずに1.0*10^-3乗Paまで引いてくれた
ターゲットまであと少しだ
リークの心配も無い
大気圧に長く晒していたせいか
ここからがいつも長いんだ
真空計のDEGASを試してみようか
吸着されたガスも
いい加減一所に留まってるのは
飽きただろうし
不安定な真空のまま一層飛ばすと
白濁するかもしれない

たっぷりDEGASが2.0*10^-3乗まで真空度を落として
徐々に高真空へと昇っていく
俺はこの瞬間が好きだ
DEGASをオフにすると、熱せられたフィラメントが
冷えていくような悴むような動きで真空度はさらに上がっていく
ヒーターは赤熱したまま窓から室内を照らしている
650wのそれほどでもないが、測定子の白い光も俺に光を放っている
さらにチャンバー内で回転する、冶具に収まったプレーナシリコンウェハは
全てを反射してきらきらと輝いている
真空蒸着機の中は熱と光の世界だ

そして真空度がターゲットを達成し
チャンバーの温度が条件を満たしているのを確認し
俺はエミッターアッセンブリに電圧をかける
プログラム制御された電子ビームがALインゴットの表面を液状化させていく
全くいつものことだが、電荷した瞬間のO.Lにはうんざりだ
放出された分子が一瞬真空度を低下させるたびにひやひやする
冷却系やハースローテーション周りのリークが有ったら何もかもやり直しだ
電子ビームの形状を見ると、ちょうど理想といえる大きさだ
レートも落ち着いている
スリット板とクリスタルに異常が無ければ
きっと次にお目にかかるときは
俺の表情もお前も綺麗に輝いてるだろう
そう!例えリペア品だったとしても!


自由詩 真空蒸着 1.01 Copyright 竜門勇気 2009-04-20 08:29:26
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