理由
nonya
角砂糖をひとつ
昨日の夕焼けに落とした
レモンだけじゃ
辛すぎるかもしれないし
ただなんとなく
作り笑いをひとつ
一昨日の捨て台詞に添えた
当って砕けただけじゃ
苦すぎるかもしれないし
ただなんとなく
貝殻をひとつ
昨年のグラスに沈めた
炭酸だけじゃ
想い出にならないかもしれないし
ただなんとなく
バカヤローをひとつ
一昨年の雑踏に紛れこませた
後ろ姿だけじゃ
憎みきれないかもしれないし
ただなんとなく
だけじゃ
いけないのかなあ
今日も僕は理由を探しに
月の砂漠を歩き回る
かと思えば
オアシスの居酒屋で言訳を
したたかに飲んで飲んだくれて
ラクダに乗って帰ってくる
本当の理由があったためしが
あっただろうか
突きとめたはずの理由は
なんの理由もなく
のどちんこから揮発していく
400字詰原稿用紙2枚に
書きなぐった理由もどきの戯言を
胸ポケットに捻じこんだ僕は
乙に澄ましかえって
明日のエスカレーターの
右側の隊列に加わるだろう
約束をひとつ
明後日のハチ公前に投げた
能天気だけでも
生きのびていけそうな気がした
ただなんとなく