孤独
ふくだわらまんじゅうろう

     孤独



君は本当の孤独を知らない
だから「寂しい」なんて言う
君は本当の孤独を知らない
だから「死のう」なんて考える
君は本当の孤独を知らない
本当の孤独を知らないからそうやって
人を羨んだりする

「孤独」が彼女に取り付いたのには
たいした理由があったわけじゃない
ただ、そうした「星」のもとに生まれた
ただそれだけの理由だった

それ以来、彼女はずっと孤独だった
どんなに親切な友人ができても
どんなに素敵な彼氏ができても
彼女の心が満たされることはなかった

そんな彼女が孤独であることに
誰も気がつかなかった
だからこそ彼女は本当に孤独だった
孤独だけが彼女と共にあった

そんな彼女を愛する一人の男がいた
彼には彼女の孤独がわかった
それがどんな色でどんな形をして
どんな手触りなのかがわかるのだった

そして彼は何をしただろう
彼女の部屋をバラの花で埋め尽くしたのか
彼女の窓辺にギターを抱えて愛の歌を囁いたのか
彼女を野に連れ出し太陽の下、飛ぶ鳥や遊ぶ獣たちと命の踊りを踊ってやったのか
違う
彼は彼女の心の血袋に
よく研いだナイフを刺し込んだ
ゆっくりと
やさしく
血袋は、すうっと静かに裂け
美しく赤い血が溢れ出た
彼女の心の中には赤い
血の海が広がっていった

彼は悲しかった
彼女の心の裂け目から
本当の声が聞こえるようだったから
彼女の心いっぱいに広がった
血の海の赤があまりに美しく映ったから
彼は本当に彼女を愛したのだ
彼女を愛し
彼女の孤独を愛したのだ

君は本当の孤独を知らない
だからお日様を浴びようとしない
君は本当の孤独を知らない
だから自分の足で歩こうとしない
君は本当の孤独を知らない
だから枝豆の茹で方を知らない
君は本当の孤独を知らない
だから自分の罪を知らない
君は本当の孤独を知らない
本当の孤独を知らないからそうやって
人を憐れんだりする




自由詩 孤独 Copyright ふくだわらまんじゅうろう 2009-04-13 02:29:10
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