リタのことを憶えている
甲斐マイク


遠く月の裏側で生まれた双子は

痩せたブナの木の下で深くお祈りをする

夜にぶら下がったみずみずしい雨は二度上がり

翌朝 ひとつの名前が届いた


世界は叙情で出来ている

ほんの少しの鉄と煙を含んで

大人になる前に知っておきたかった

「僕はリタのことを憶えている」


ある日こんこんと寝静まる部屋をあとにした

小さなリュックに荷物をつめこんで

素敵な名前を手に入れたかわりに

双子はひとりになっていた


世界は叙情で出来ている

大切なものは目に見えないこと

生まれる前に知っておきたかった

「私はリタのことを憶えている」






自由詩 リタのことを憶えている Copyright 甲斐マイク 2009-04-11 01:41:11
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