夏の夜、此処にいたくない
滝沢勇一

せっかくの夏祭りだから。
夕暮れ夕闇裏の寺夏祭りだからって、500円もらって
「あそんでらっしゃい。」
オレンジ色の提灯熱コイル焦げる抵抗フィラメント、裸電球並ぶ屋台
祭囃子、とてちかてん、てん、ててん
ざわざわざわざわざわざわひととひとと色とりどりひと真っ赤な金魚たゆたう風鈴水いろ咲く花紫陽花の浴衣カラ、カラ、カラ、素足肌いろふともも鼻緒あしのゆび朱塗りのつめつめ黒い下駄
りんご飴、射的、かき氷、綿あめ、輪投げ、焼きぞば、ソーダ水
もらった硬貨握り締めて、輪投げ1回300円
「5回で300円、よっく狙いなよ」
ビニールテープ赤あお黄色巻いたプラスチックの投げ輪持ったら隣の子が親と一緒になって楽しそうに投げてやんからなんだかひとりだしそもそも友達いないし。誰あいつ誰だよって背後の気配に投げやりにさっさっささっさと輪投げて外した。なんでもないですよって顔してそりゃ外れる輪みたいな取り繕いしてえんぎ
人ごみ抜け出しお面眺めた手持ち残金200円
なにやってんだ…。
夢か記憶かようわからん夢から覚めたら午前2時、道端
飲みたくもない酒飲んで泥酔
夜未明、未だ宵のくち風俗小路
セブン・イレブンの脇が入口
赤い青いオレンジのネオンが眩しい目悪いから滲んできら、きら、きら、きら
期せずにど真ん中歩く俺気不味くなってハジ歩いてたら異臭、気づけば乞食と乞食と乞食と併歩
酔った勢い3ん回おう吐、ぐらあんぐらんで震えて歩く
店に店に呼び込み女、しなだれかかる茶髪くちびる柔らかな肩
食み出しよこチチはだけたおっぱい
性的内分泌匂い重いむせかえる濃いあつい腐った花びらのびらの匂い
みんな俺を無視。
きゃらきゃら笑う女の声楽しげな音楽
誰も俺を無視。
不意に、
激痛ドライアイの目に刺さるネオンのひかりひかりひかり、砕けて
立ち止まったらまた異臭、下見りゃ乞食と乞食が酒盛り凝視
まったくの偶然異常に近距離、目の遭った刹那、白眼が充血して真っ赤
俺は、なにやってんだ。
ずらあああって並ぶ赤きいろ青あおみどりいろいろないろのひょうきんな顔、顔、顔、顔
お面の前で軋む100円玉2枚
「せっかくお小遣いやったのに、なんでそんななんよお」
ぴいひゃら祭りの囃子賑やか、きれいなおんなのひとひとひとひと
オレンジの裸電球眩しくて、くらむ
仲良し誰かとはしゃぐ誰か、友達の誰かと笑い合う誰か
てけてけとてん、きゃらきゃらきゃら、ふ、ふ、ふ、ふ
こんなとこで、なにやってんだ。
行きたくも無かった飲み会で爆笑演技鬼の首
獲った騒ぎで大爆笑
タイミングずれても誤差範囲で爆笑
腐ってくねえ腐ってく
空気くすぶってあぶら臭い、けむい
「ここ豚屋だから豚なに頼んでもおいしいってよー飲んでる?」
「うん。」
豚ばっか豚ばっか豚ばっか頼みやがって店員が濁った眼でつっ立つ、沈黙
あいたグラス、皿さげて濁った眼して隣の机拭いてみんな笑って俺も笑って手を叩いて顔引きつらして喉を潰してぎゃあぎゃあぎゃあて笑うガラスのぶつかるおと鋭い音耳に聞こえてぎゅるってそっち見たら無言の店員が店員が、いた。
テーブルの上の同じとこ何回も、さっきからいやずっと前からいやいや思えば開店直後からいやいやいやいや俺が来て笑い出す前から何日も何日もまえからずっとずうっとずっと何回も何回も何回も何回も結局その、汚れてるそのテーブルのおんなじとこを店員が濁った腐った豚の顔した豚屋の豚の店員がぎゃあぎゃあ俺も引き攣って隣の男も引き攣ってテーブル叩いて皿がぶつかって串が落ちてタレが飛んでまた豚臭くなって汚れて別の、おんなじ店員が、また何回も何回もおんなじとこを拭って腐心、必死になってずうっとずっと
何やってんだ。
みんなが笑ったタイミングで思わず立ってやばいって思ってそのまま大爆笑
「本とうけるわあ、ちょっとトイレ。」
必死にやったのに全員沈黙
隣の隣の女の後ろ通ったら女の匂いがして
店員と目が合った。
さっきのなしよって俺黙殺、会話再開まるで騒音
電灯がオレンジ色だからドライアイの俺の目が激痛耐えかねて、閉じる
頭が拍動笑い声と混ざる
つられて俺も乾いた爆笑
何やってんだ。
俺は、何やってんだ。
おれはなあ、おれは
こんな
こんな
こんな
こんなとこで
いったい
何を何を何を何を
何をやってるんだ。

疲れ果てて泥酔俺は歓楽街の道端で眠いねむい
賑やかな夜。
ぴかぴかきらきらきらひかり夢みたくひかり夜に溶けてって群青の夜は濃密で透明
オレンジきら、きら、きら、ねえネオンサインが目に痛い
夜まだまだまだ宵の口、祭囃子が見えるよりも遠くに聞こえて石段でびい玉落してソーダを飲んだ
ソーダはラムネジュースといって透明グリーンの瓶冷たっくて炭酸しゅわしゅわ甘くて痛くて楽しいよう
目を瞑ったら遠くにはオレンジのひかり群青の夜お祭り縁日笑い声きれいな浴衣楽しいお囃子みんなみんな一緒になってラムネ・グリーンに沈んで溶けてしゅわしゅわ気泡がどこまでもどこまでもどこまでも遠い夜空かどっかに立ち昇ってったからもう、さみしくないよってユメだから
目を覚ましたらきっと、
明日また始まるから。
んなことねえよって顔して蹴られても揺すられても何されてももう頑張ってマジで必死になっておれ、眠る。
「ラムネとかのみてぇ。」
激しい尿意と口渇、はは、なんてアンビバレント
目を瞑って


自由詩 夏の夜、此処にいたくない Copyright 滝沢勇一 2009-04-10 19:31:06
notebook Home 戻る