セッション
あすくれかおす


「19:46」


寸鉄 

刺さらない釘になったのは

一度も

尖らなかったから

地下鉄

洞穴の夜に走る光は

何度も

懐かしい言葉で問いかけてくる

君たちの世界は交わらない

何時までも朱に染まらない、と


「19:55」


等しきものよ 踊れ

夏枯れが冬

刻まれる風になる

看破した扉の

木片に書き付けた

一度も許したことのない

過ちなどは ここにはない

等しきものよ 踊れ

続いていくものが四つ

見たままの出来事が本当で

見えないものほど熱っぽい

ドレミの順番で

語られることはないという

トッチら飼った部屋の中

チップとチーズの匂いが充ちる

並んでみれば 皆等しい

それを歌うは ユズリハの揺り

時として 人は何処かへ手を伸べる

さみしい踊りは 人を幼くする

ユーロ ピンフ ポートレイト

手に握ったものが 僕らの配牌

どちらさんも 

和了まで裏返らないから

握りしめたもの 全部手放して

踊れよ今夜の 人式物たち


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はす向かいの女が言う

眼鏡に書いてある文字なんですか?

読んだこともない 眼鏡はかけるものだから

特に気にしたこともない 男がダンサブルにそう呟いた

比べて並べるものなんて

一度も気にしたこともない

眼鏡は言葉を書くものじゃない

女よかけるものだから

そういう時間に 

等しきものよ 踊れよ今を


「20:06」

漫画なんて読んでる場合じゃなかった

青春時代は時代じゃなかった

暗い銀の電柱に

酔いどれてしがみついていた

短い羽音を立てた冬鳥

星座の次に夜へ昇った

何処までも続くのはビールの夜伽話で

泡立つぶんだけ息づいて

きみと ぼくと だれかべつの人々を

集わせて じゃっかん 離し気味に揺らして

どこまでつづいてしまうのか

ベース音 ひたすら 斜めに傾けて

一方で姿勢を正すハイハットが

順調な茶道を歩いていく

サックスの手前で右折してくるよと

仕事帰りの先輩方が連絡をのせて飛んでくる

どんなことがあっても

更新されていくのは体積と細胞で

老化 灰化 鈍化 劣化

ドンブリ飯にしてしまおう 今日は 24時間ある

続けて低い声 野犬たちが縄張りを伝え合う

電話線よりも高い位置で

彼らだけのイントラネットがやり取りされる

フランチャイズの外食店では

決まりきった動きの中で間違う

非常にルードなおばちゃんたちが

じつは常識的な客層だったりする

手を伸ばせば 掴めるものが沢山あるのに

都会を牛耳る脳トレの世界は 極小の宇宙で

目線 閉じこめて

抜け出せないのは あの半導体の引力で

非常にルードなおばちゃんだけが

実は宇宙を乗り越えているんだ


「20:17」

Rolandは

昨日靭帯を切りました

私たちのお見舞いは オーギョーチの盛り合わせで

液体を病院の廊下にこぼしながら

笑い合って今 そちらに向かっている所です

ロランドは

時々音符を拾い忘れることがあります

「今なんていった?」

そういう彼の声は

私たちが若い頃 

よく聞き間違えていた シールドのバズ音と一緒です

レディース そして ジェントルマンは

株式市場のグラフみたいに

今宵のレセプションのバイオリズムを考えている最中で

誰しもロランドのことを忘れていくだろう

靭帯をきった若者のことを

話にならないことこそを

私たちは話し合うべきだったんだ

こぼれた液体が蒸発して 後が遺るころに

私たちはようやく 真面目な顔をするのだろう

適当なビアンキなどなく

キャノンデールも大人買いできない

私たちができることは ロランドを見舞うこと

今すぐバーミヤンへ走り

オーギョーチを頼むこと

オーギョーチ 住人ぶんお願いします

滞納したぶんだけ

大家さんは困るのよ

怠納したぶんだけ

私たちは減ってゆく

減って減って

地球の最後に皆の灰白質が積もってゆく

怠納したぶんだけ

私たちの名残りがかさんでゆくのだ

ロランドは靭帯を切りました

携帯を解約しました

休学届けを出しました

スタバが図書館に出来ました

そうして時間が流れてゆくのです


世界はこぼれるものばかりです


・・・


「どうしてもまた いくんですね」

七回忌に仰った言葉が

丁寧で やりとりが少なくて

シンプルで なおかつ重く響いた


飛行機は暗闇でも飛ぶし

真昼の空模様は晴れた

できれば永く 空気を吸っていたかったと

いなくなって七年目に

彼はわたしに 言うんです


どうしてもいってしまうなら

七回消えても 

きっと忘れないだろう

どうしてもそこへ いってしまうのなら



「20:38」

近道をしよう

サーチライトに追いつかれずに

時間は食べものとは違うから

未消化のままで逆行したりするんだ

ちょっとだけ手を止めたつもりなのに

いつのまにか身体 布団に投げ出している

そういう作用が 夜にはあるものさ

長い一日だったから

きょうは近道をしてみよう

甲高い位置から

真横に投げてみる

どうしても届かないものは

そこにはないものとしてみる

だけどそういう工夫が巧くなっても

然程の回り道 如何ほどの近道になるだろう

空気は酸素より多くて

大衆は僕よりも巨大で全体に充ちている

湿気を嫌ったり好んだりするように

季節ごとの言葉で 

音感を伝えてゆきたいんだ

そこにあるのは分かっていても

届かないものがある

全体が敵になったときに

僕らの味方をしてくれるものは

空気より少ないのかもしれないね

だけどそうしてかわりゆくことで

しだいに進んでいくもんだ

常に 減り 産む 吸い込み続ける

そうやって僕らの十年は 育まれてきたんだよ

昔話で盛り上がろう

お金の話もたまにはしよう

色恋沙汰なら隣に座って

果てない話も 吸い込んでいよう

そうやって僕らは 

ポーンを と金に 変えることだってできるから

たまには近道してみよう

サーチライトに怯えたりせず

僕らは空気より少ないものを交感し合っているんだ

それは意味よりも心強い味方

果てない韻律を 僕らは吸い込み続けてる


・・・

カーボナルな給食が恋しい

もう三日も米を食っていないという

育ち盛りのひとたちへ

旺盛な今夜を届けたい

一度も忘れてない

食欲 いつでも貪婪な眼をしてる

二の次にしているつもりで

生活のシャフトを曲げることができない

光熱費よりも食費

食費よりも稼ぎが少なくなっても

たぶん武者ブル 事を止めない


「20:59」

「キャノンボール・アダレイのことなんて

何一つ考えちゃいなかったのよ」

彼女はそう言ってすぐさまジンライムを頼んだ


ここまではたしか お洒落な時間
(例えばムラカミ・ハルキのように)


どうして女が減ってゆくのか

産み育てるのが生き物なのに

誰かが何処かで腐臭をたてて

鼠の嫁さえ寄せ付けないのか

通り名がジャズになっている人がいた

別に思っているほどジャズではなかったけれど

黒板のはじっこには決まって名前があって

名前がいつもあるってことは 僕らの楽器と一緒だねって

よく分からないで喋ってたんだ

キャノンボール・アダレイの 晩ご飯はなんだったのだろう

音楽以外の事に興味を持っても良いですか

通り名がジャズでも 飯は食いますか

人が寄せ集まるとどうしてこんなに

ビフィズス菌みたいに活発になれるんですか


カルテットとトリオで

家のCDを並べ直した

いつもひとりだったあの人が

実はトリオを組んでいたって

整列したときやっと分かった

整然とするということは

他者を見分けるということで

雑然とするということはいつでも

僕らにゴシップの雨を降らせるけど

どうしても立ち行かないものもあるから

ノイズの中でも

僕らは他者を見分けようとしているだけなんだ


・・・



ひかりとんで ひとり

ひとりとんで 人型ロボットの

ようやく我々の時代は 人工人を 産みだしはじめた

踊るような脳みそまでには あと5万年


それまで我々は 滅びることを忘れることにする



忘れた頃に寸鉄は

必ず刺さるものだから






自由詩 セッション Copyright あすくれかおす 2009-04-07 09:19:19
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