あたし達のコマーシャル(瞼の裏限定)
光井 新

 目が覚めたらもう八時。寝坊しちゃった、やっばー。
 急いで歯磨いて、顔洗って、着替えて、髪の毛梳かしながら、行ってきまーす。
「あら、朝ご飯いらないの?」
「いらなーい、もうそんな時間無いし、ていうかお母さん何で起こしてくれなかったの?」
「だってもう中学生じゃない、自分で起きなさい」
 確かにぃ「良かったねー、為になったねー」って言ってる場合かっ、急がなくっちゃ。テーブルの上のトースト一枚くわえたら、靴履いて玄関開けた瞬間に猛ダッシュ。
 遅刻しちゃーう、ジグザグサンバの蝶々サンバで、あたしの華麗なるショートカットテクニックにチャンバも走る走る。勢いそのままに猛スピードで曲がり角曲がった瞬間、誰かと激突!
「いったーい!ちょっとアンタ、どこ見てんのよっ!」
「イチゴ柄」
 いや〜ん、ちょっとコイツ、パンツ見てるんですけどー。
 バッチーン、無意識にビンタした。その相手はあたしと同い年位の、知らない男子中学生、赤くなった頬を手で押さえながらキレた。
「いってーな、いきなり何すんだよ!」
 むっかぁぁぁ「うっさいわねー、この変態!」ってこんな事してる場合じゃ無かった、捨て台詞「もしあたしが遅刻したらアンタのせいだからね」言いながらダダダダダッシュ。
 なんとか無事に学校着いて、チャイムと同時に教室滑り込んだら、まだ先生来てないみたい、セーフ。ていうか、折角猛ダッシュして来たのに、なんか今日先生来るの遅い、どうしたんだろ?
 そういえば、クラスの皆もいつもより騒がしい「ねぇねぇ、今日転校生来るらしいよ」とか「どんな子かなー?」とか、そんな感じ。へー、転校生かぁ。
 ガラガラッ。やっと来た先生が「えー今日からこのクラスで一緒に勉強する事になった仲間を紹介する。入れ」と言うと!
 さっき通学路の曲がり角で激突した男子中学生が入ってきたので、びっくりしたあたしは立ち上がり指をさして「あっ!さっきの変態!」と思わず叫んでしまった。と、同時に向こうもあたしの事を指さして「あっ!イチゴパンツ」と叫んだ。恥ずかしいよぉ。
 ちょ、先生こっち見てるし。ひょっとしてあたしのイチゴパンツ、気になっちゃう感じですか〜?
「何だ、お前等知り合いか?」
 違います先生「誰がこんなヤツ」つーん。って、あっちもまた同じ事同じタイミングで言ってるし。
「何だ、お前等仲良いのか?じゃぁ席隣な」
 ちょっと待ってくださいよ〜「こんなヤツと隣の席なんてイヤですよ〜」あたしは雛壇芸人並みの瞬発力で抗議した。何故かまた同じタイミングで、向こうも同じ事言った。
「凄いなー、お前等息ぴったりだなー」
 ボーゼンと立ち尽くしていると、窓から風のイタズラ、あたしのスカートハラり、パンツチラり。思考停止。
 クラスが大爆笑。男子達が「ぅぉっ本当にイチゴパンツだよ〜」とからかう。いつもなら「やめなよ男子ー」とか言って助けてくれる筈の女子達も今は、突然のハプニングに大爆笑している。ぅぅぅぅ「えーん」って大声出して泣きたいけど、恥ずかし過ぎてそんな事も出来ない、音も無く涙がこぼれる。
 そんな中「やめろよ!」と、転校生の声が響く。あいつ……意外と良いトコあるじゃない。
 すると男子達が「ヒューヒュー」と囃し立てる、のを透かさず「あなた達、止めなさいよ」と委員長が注意する。さすが委員長、さすがメガネ、さすがおさげ、よっファッションリーダー。ナイスですよ、キラーン。

 ちゅめたっ、目を覚ますと目の前に三ツ矢サイダー。
「いい加減起きなさい。それでも飲んでシャキッとしなさい」
 ありがとう委員長。あの時からずっと、ウチらスパダチだっち〜。
 それにしても懐かしい夢を見ちゃった、あたし十七歳。授業中も寝ちゃうわよ、JKだもの。いつの間にか昼休みになってたー、てへっ☆
「お!いいもん見っけ。もーらい!」
 いや〜んあたしの三ツ矢サイダー、返して〜。待て待て〜「アハハハハッアハハハハッ」きらり、きらきら。
 今年もまた同じクラスで隣の席のあいつは、あたしの大切な物を盗んでいく。
 確か、一番最初に盗まれた物はハートだった。中学の時、あいつが転校してきた日に盗まれた。だからあたしは追い掛ける、どこまでも追い掛ける。今日も校庭まで追い掛ける。
 シュワッと炭酸みたいにハジケる、あたし達、青空にとけ込む。


自由詩 あたし達のコマーシャル(瞼の裏限定) Copyright 光井 新 2009-04-07 01:02:02
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