河津聖恵さんの詩集、『神は外せないイヤホンを』に書かれている詩は、わたしの心のとびらを一生懸命たたく音が聞こえてくる詩集です。
2007年7月23日から8月21日にかけての30日間、毎日一つずつ書かれた詩でできています。(本当かどうかは分かりません。)
強い言葉で一生懸命たたいてくれるのだけど、扉をあけるのはわたしに任せてくれているといった、とても強く、それ以上に鮮やかなイメージに包まれた詩集です。
例えば『土地』という詩。
土地
この白さのどこに「平和」と穿てばいいか
白い虚ろをいつから私たちは歩きはじめたか ――不安はいつもそこにある
しらしら明け ふいに目覚め
神の手のひらが開いていく紙の 皺をそこここに感じ取る
薄紅の湖のさざなみや
常緑の螺旋きらめく山なみ
黄金のカワマスが 未来という次の一瞬を跳ねる
よこたわる私は 全身の血の紅さを農婦のようにかんじとり
そよぐ言葉の苗を植えまどう
「平和」の反意語でなく
言葉ですらない戦争とは透明な機械 主のない憎悪が
眠る私を 星の裏側からカナシバリにして
人質にしてしまう 詩人のような人質にしてしまうが
夢が尽きるまで植えまどえ
この詩のなかで、
「真紅の湖」
「緑の螺旋きらめく山なみ」
「黄金のカワマス」といった色の中におかれる
色すらいらない「透明な機械」としての「戦争」
白い鳩などで、「平和」のシンボルとなってしまった白に対して言葉を貼り付けることの難しさが感じられます。
欄外に、この詩が置かれている日付が書かれていて、これも重要な要素です。
『土地』が置かれているのは7月28日。
1914年のこの日、第一次世界大戦が始まったのでした。
この詩の著者の河津聖恵さんは、1961年東京に生まれ、現代詩手帖賞とH氏賞を90年代までに受賞されている詩人です。
『詩のテラス』というブログを川口晴美さん、北爪満喜さんと一緒に運営されています。
http://maruta.be/terrace_of_poem/
この詩集の冒頭の詩、『神は外せないイヤホンを』の註で、「本日よりある祈りをこめて毎日詩を書くことにする。詩を生きる。詩を祈る。詩を賭ける」という言葉でも語られているとおり非常に強い念がこめられている詩集です。
ほかにも8月15日、終戦の日に置かれている『色』という、希望の色は何色かと問いかける詩も私の好きな詩です。
この詩のなかで「きぼうとはなにいろか/喉もとあたりでしか答えられない問いらしい」という言葉を見て、今私はどうしたらその「いろ」を頭に描けるかを今も考えています
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神は外せないイヤホンを 河津聖恵
出版社: 思潮社 (2008/03)
ISBN-10: 4783730504
ISBN-13: 978-4783730507
発売日: 2008/03
商品の寸法: 18.8 x 12.6 x 1.2 cm
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