恋愛未満
きりえしふみ

 赤いルージュで 待ったをかけた
 絶望 弱音 告白 悲哀
 喉元を通り過ぎそうになった頃
 造花にしてみた 揚羽蝶をピンで止めてみたんだ あたし
 だって生物のままじゃ 凡そ存在し続けることなど出来ない
 そんな時間ばかり 思いばかりが忙しそうに乱反射
 行き過ぎてしまうから
 『綺麗な素肌を美女は作り込むのに躍起になる』
 のと 同じ渇望で

 ねえ
 『ア・イ・シ・テ・ル』
 だなんて 君の前闊歩して行きたがる
 凡そ理性的だなんて言い難い 玉響(たまゆら)の時間
 移ろい易い そんな想いは
 いっそ 壁飾りにでも換えてしまった方がいい
 ギラギラ輝く スパンコールの街明かりに
 届かない星明かり 溶け込ませて
 『なかった』ことにしてしまった方がいい
 君の為を第一に考えられない 臆病者が此処にいるなら

 ねえ
 『ア・イ・シ・テ・ル』
 だなんて伝えている合間に そんな情熱
 ビビッドに皹が入るよ 瞬時に
 不安や疑惑が 無数の小さな針になって
 胸の中の揚羽蝶 刺し殺そうとしてしまうから

 誰か 誰か 誰か……
 あたしはボロボロになってもいいと
 ドレスを破り棄てさせて
 ハイヒールをストンと ビル街に落として行かせてって

 願っても 願っても 突っ立っている
 (刃物のように ギラつく熱情 滾(たぎ)らせている人々を尻目に)
 恬(てん)として動かない お澄ましさんのあたしがいるから

 『……………』

 そんな気持ち 打ち明ける前に
 真っ赤なルージュで待ったをかける
 誰か 誰か 誰か……と物欲しそうに艶めく唇
 光らせているだけでは 『君』は

  見つからないのに 見つけられないけど

 (c)shifumi kirye 2009/03/17


自由詩 恋愛未満 Copyright きりえしふみ 2009-04-01 19:01:45
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