余命宣告
北野つづみ

0・1秒で世界は脆くも崩れ落ちた
すべてを呑み込んで時間は
いつもと変わらぬ速度で流れていった
それがあなたの「痛み」だった
それはあなたの「痛み」だった

けれども
真夜中に目が覚めれば天井は
凍った二月の夜空のように寒々としている
思考に下ろされていく錨は
どこまで下ろしても海底に届かず
引きずり込まれる!
恐ろしくなって思わず寝返りを打つ
そんな夜が誰にでも一度はあったはずだ

涼しげな顔で今日を歩いていく人たち
無駄の無い動作で
流れるように改札を通り抜ける
まだ告げられていないだけで
防波堤から眺めた蜃気楼のように
「痛み」を知覚できる わたしたちには

崩れ落ちた世界を前にしてなお
崩れ落ちずに立っているあなたに
差し出せる言葉のひとつもない



自由詩 余命宣告 Copyright 北野つづみ 2009-04-01 10:07:27
notebook Home 戻る  過去 未来