星型の住宅
片野晃司
ダイ、ダイラ、
風吹きわたり
陽あたりのいい場所で
投げ捨てた果実の種が
ことごとく芽吹いて巨樹となり
大地を引き裂いて
ダイ、ダイラ、
風吹きわたり
陽あたりのいい場所で
はらわたの
雑木を引きちぎり
舞い上がる星型の住宅
通信状況は良好
わたしたちは上昇しています
遊具は順調に回転しています
給湯器を再点火しています
羨望のまなざしで
生きているものと死んでいるものを
正確に識別できています
燃料タンクを次々と投棄しながら
若かったわたしたち
そのわたしたちの子
その子らのてのひらが
つぶつぶと群雲に吸い込まれていきます
遠くで千の島が沈んでいきます
皿の上で虫が死んでいます
洗濯機、トースター、
星型の住宅の
いくつもの調度が落下しています
退色したダイニングキッチンが
雲の向こうへ落ちていきます
テレビが、ラジオが、
ひとつひとつ沈黙していきます
ダストシュートは腐敗しています
飲み水はあわ立っています
かつてあったもの
手に入れたもの
戻らないもの
抜け落ちていくもの
忘れられながら
わたしたちは
急速に老化しています
ダイ、ダイラ、
赤茶けた小さな畳
剥がれ落ちたタイル
壁に貼った写真
わたしたちは
まだ観測できています
ダイ、ダイラ、
まもなくテープが尽きようとしています
星型の住宅が
燃えながら
砕け散りながら
空を横切っていきます
詩誌「ガニメデ」2007年4月