日常の味
小川 葉

 
 
健康診断の結果
肺に小さな影がありますと書かれていた
早く再検査に行きたかったけど
仕事も忙しくて
時々そのことを思い出しては忘れ
思い出すと泣きたくなる夜もあった
実際泣いた夜もあった

それから一月ほどして
やっと仕事も落ち着いたので
午後から再検査に行こうと思って
昼食は大好きな店で
少し贅沢なランチを食べた

どうしてこんなにも
食べることは生きてる感じがするのだろう
どうしてこの店のごはんは
いちいちどれもこれも
こんなに美味しいんだろう
食べ終えてしまうと僕は
もうこの店にごはんを食べに来ることは
ないような気がしていた

それから薬局に
あかすりを買いに行った
せめて自分の体をきれいにしたかった
とでも言うような気持ちになったんだろう
血のような色のあかすりを買って
病院に向かった

薄暗いレントゲン室で
全身が影になってしまったような
気持ちになっていたたけれど
お医者さんの話を聞くと
肺の血管と思われたけれども
少しぼやけて写っていたので念のため
ということだった
影と思われたそれは肺の血管だった
くっきりとそれは写っていて
血が流れているようだった
異常なしだった
ほっとした

帰宅して
今日の経緯を妻に告げると
異常なしであったことを告げるより先に
えっ!お弁当は?と、きょとんとしてるので
あわてて鞄の中を見てそれに気づいた

申しわけない気持ちになって
夕食にお弁当を食べた
いつもと変わらない
当たり前のようにそこにある
日常の味が懐かしくて
嬉しかった
 
 


自由詩 日常の味 Copyright 小川 葉 2009-03-27 01:58:51
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