春乱
佐野権太

氾濫する
春の本流を立ち泳ぐ
辺りには甘い毒素が満ちていて
脳から先に侵されてゆく

あらゆる感情の結び目は解けて
それがいいことなのか
悪いことなのか
判断さえおぼつかないまま
いっそ
この曖昧な泥水に
すふすふと身を沈めて
溺死したい、と思うのです

岸辺では
小さな生命が
連続した曲線に沿って生まれる
幾千もの細い腕が
その現象を掴もうとして
うらうらと揺れている

陽射しを遮ろうとして
かざした私の指先が
ぱきん、と弾けて
枝分かれする
ふやけた体躯が
引き上げられる頃には
きっともう
全身が芽吹いている、と思うのです







自由詩 春乱 Copyright 佐野権太 2009-03-20 15:14:54
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