春乱
佐野権太
氾濫する
春の本流を立ち泳ぐ
辺りには甘い毒素が満ちていて
脳から先に侵されてゆく
あらゆる感情の結び目は解けて
それがいいことなのか
悪いことなのか
判断さえおぼつかないまま
いっそ
この曖昧な泥水に
すふすふと身を沈めて
溺死したい、と思うのです
岸辺では
小さな生命が
連続した曲線に沿って生まれる
幾千もの細い腕が
その現象を掴もうとして
うらうらと揺れている
陽射しを遮ろうとして
かざした私の指先が
ぱきん、と弾けて
枝分かれする
ふやけた体躯が
引き上げられる頃には
きっともう
全身が芽吹いている、と思うのです