ロコの畔
あおば

 瑞々しい嘘

                090311



元死刑囚が
テレビの中で
話をすると
南から北へ
北から南へと
冷たい風が吹き抜けて
墜落した飛行機の中で生まれた君は
今は何歳になったのだと
尋ねられ
答えに窮す
理屈をこねて
嘘を捏ねて
ヘドロのような海を潜る

上昇する
液体
学校帰りの
負債
食人種になって
何年も暮らしていたら
食べる物が無くなった
獲物を求めて
薄暗い道を歩いていたら
突然顔を出した
赤鬼に
襟首を捕まれて
私道の脇へ
引きずり出された
赤鬼の正体は
向き不向き
進路指導の訓導
鉢巻きを締めて
突撃訓練に明け暮れた
竹槍にも馴れた頃に
戦争が終わった
平和になったので
特急も復活して
テレビ放送も始まった
岸首相が
総理大臣になった頃に生まれたトランジスターテレビ
高圧回路の発生機構は
真空管よりも簡単になり
安定度も増した
そんなことを言いながら歩いていくと
頭の上を掠めるように
旅客機が飛んでゆく
重たそうな胴体を
軽々と引っ張ってゆく
ジェツトエンジンの
重たい響きに
ににんがしの
教訓を忘れてしまったような気がする
赤鬼は
お酒が好きと見えて
真っ暗な今は
もう
現れない





「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、鈴女さん。







自由詩 ロコの畔 Copyright あおば 2009-03-13 00:31:06
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