さびしい幽霊
銀猫
沈丁花の、
高音域の匂いがした
夜半から降り出した雨に
気づくものはなく
ひたひたと地面に染み
羊水となって桜を産む
きっと
そこには寂しい幽霊がいる
咲いてしまった菜の花、
埃に霞んだやわやわの土、
そこは花畑ではない
縮れた葉おもてに、
まだ霜は降る
きっと
そこには寂しい幽霊がいる
それら
早すぎたかなしみは
彼岸へと流れ着き
時を隔て
半透明の未練たらしく
ゆうれいになるのだ
宿主を探して見つからぬまま
しろさを奪われて
かと言って
逃げもせず
物陰からじっと春を見据える
(透明が近づいてくる)