月の輪郭

帰るところがないので
人を殺してきた君と二人で
月のない夜に 逃げた

君の瞳の中を悲しげに
放し飼いにされた電子ペットが歩く
気が狂いそうなほど優しい君が
気が狂いそうなほど哀れに見えるから
僕は君の手をずっと握り締めていた

君の指先があんまり冷たいので
僕は何度も帰ろう、と言いかけたけれど
君が夜を吸い込んでは咳き込むので
その度に僕は何も言えなくなり
黙りこくったまま君と歩いていた

自分の体を食べてしまった月が
わずかな輪郭だけを引きずり
びっこを引きながら夜空を歩いていた

高層アパートの階段の踊り場で
行き止まりの君の足先に
触れた瞬間に夜風が銀色に変わるので
君は人を殺したことが忘れられない

地上二十メートルの階段の踊り場で
立ち止まる僕に問いかけた
永遠を信じられない僕はもう
君の手に入れたものが見えないから
強く握り締めていた君の手を離したとき
空から月の輪郭が墜ちて
二人の背後で砕け散る音がした


自由詩 月の輪郭 Copyright  2009-03-03 18:10:45
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