玉蜀黍砂漠
A道化
夏の玉蜀黍畑が夏に朽ち
私は鼓動を探ってうずくまった
途方も無い大気の、余りの光、余りの熱
玉蜀黍の呼吸には錆びて乾いた砂が混じり始め
焦がれるように焦げながら体躯は空に触れた
その脇では用水路が
切り傷の出来るときに似た音を立てていた
私はうずくまっていた
此処にいることを、私が忘れたらば
私は何処にもいなくなることが出来るだろう
途方も無い大気の、余りの光、余りの熱
蒸発寸前の眼球と空の間を埋め尽くす玉蜀黍の体躯の
緑、緑、緑、と、それを侵す錆、錆、錆
私は体に血が流れていることを
まず、くらくら、信じられなくなり
次に、くらくら、忘れかけ
このようなときに
用水路の音に耳を澄ますのが見当違いなら
誰かに耳元でそう叫んで欲しかった
誰かに、何かに、耳へ、体へ
きちんと叫び諭されることを欲していた
夏の玉蜀黍畑が夏に朽ち
私は鼓動を探ってうずくまり
光、熱、緑、錆、此処、私、何ひとつとして感じ逃さぬよう
嗚呼、この耳へ、この体へ
確かな赤みと痛みのある切り傷を欲していた
2004.8.20.