まりも

初めて恋をした。それは今から8年前の秋のこと。
私の初めて好きになった人は、友達の恋人だった。

その人がある日突然、言った。「お前の方が好きになっちゃった」
彼は私に生まれて初めてのキスをくれた。それだけで私は彼を好きになった。

それでも、彼は友達の恋人である。
彼のことは好きだ。でも友達も失いたくない。しばらく躊躇って、
今は付き合えないけど、あなたのことが好きですという内容の手紙を書いた。
そうして私の初恋はきれいに散っていくはずだった。
でも弱い私はここで自分の欲におぼれてしまったのだ。

やっぱり付き合って欲しい。好きです。


数日後に我慢できなくなった私は彼にそう告げた。
彼は言った。今付き合ってるやつとはわかれなくてもいいか、と。
これで彼と二度と恋人になれなくなるかもしれないと思うと、焦った。
初めての恋を手に入れたいと、それだけを考えていた。
それでもいいと答えた。キスをねだったと思う。

私はどんどんよくばりになった。私だけを見ていてほしくなった。
違う女の子に声をかけているところを見るだけで悲しくなった。
それでもその気持ちをうまく彼に伝えられなかった。
「私のこと好き?」と聞くことすらも、プライドが許さなかった。

待ってる。会いたい。今日の予定は?毎日会いたい。電話してもいい?
彼はだんだん電話にもでなくなり、メールも返してくれなくなった。
それでも、メールしたし、電話もした。待ち伏せしたこともある。


付き合いはじめて一ヶ月経った。その日も私から電話をかけた。
「今、大丈夫?」電話の遠くで、かすかに女の子の声がしていた。
振られる、と直感的に思った。だから先に言った。「別れたいの?」
「お前、重たいんだよね」「そっか」泣かないと決めていた。
「わかった。別れよう。でも、友達でいて」声が震えたと思う。
精一杯の強がりだった。


それから、彼は私の友達の一人である。
そして私は、彼の「モトカノ」のリストに加えられた。

彼に「重い」と言われたことは今でも私の恋愛に響いている。
「好き」な気持ちを相手に伝えることが怖くなった。
相手から「好き」だといわれることも怖くなった。

気持ちをどうやって伝えればいいのか、
どうやって受け止めていいのか、わからなくなった。


それでも彼氏は欲しかった。一人でいるのは寂しい。
だから自分の気持ちも相手の気持ちも察さずに、駆け引きだけで恋人を作った。
年上・年下・スポーツ少年・文学青年・オタク・短髪・長髪・不倫…
数だけは多いが、どの人も全く続かなかった。続いても最長8か月。
毎度毎度私から理由をつけて振っていた。そしてその後二度と連絡を取っていない。
顔向けできないから。恥ずかしい。振り回してごめん。

私はおそらく、これまでマトモな恋愛はしていない。


今、好きな人がいる。年は15歳も上。
一緒にいると楽しい。話していてとても楽しい。
相手してほしい。また会いたいと思う。好きなんだと思う。

これまで、私は自分の気持ちが認められなかった。
好きなのか、あこがれなのか、それを伝えていい相手なのか、
彼は私のことどう思っているのか、気になる。

結果は考えないで、自分の気持ちを正直に伝えたらいい。
そう友達は言ってくれた。そうじゃないと自分に恥ずかしいから。
大好きって、尊敬してるって、そう思ってるならそう伝えなきゃ。

友達に話しながら、私はぼろぼろ泣いていた。
泣くほど好きだったのか。そんなに好きだったのか。
自分の気持ちをこんなに押し殺していたなんてそれまで気付かなかった。


ちゃんと想いを伝えて、好きだって言ってみる。
重いと振られても、それはどうでもいいんだ。
自分に正直になって、気持ちを伝える。それが大事なんだって。

これはとっても怖いことだ。考えるだけで涙が溢れる。
今まで逃げていた自分と向き合うなんて、怖い。


15歳年上の男のひとは私のことをどう思ってるのかわからない。
私も自分の気持ちが「恋」なのか「あこがれ」なのか、わからない。
それでも、今も気持ちを伝えたい。あの人に。大切なことはそれなんだ。


散文(批評随筆小説等)Copyright まりも 2009-02-25 22:55:07
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