呆日。
ヨルノテガム





 綾瀬クン、きょうは
 あの山へ行ってみようか

 気晴らしと気まぐれに
 若草山をふと指差した

 ―ハイ、。

 なんだキミ、行ったことあるの はじめてじゃないんだ
 ボクはまだ行ったことないよ
 見晴らしも、夜景も綺麗ですよ―っ
 へえ。
 へえ。(まねした)

 そして結局、行かなかった

 綾瀬クンの記憶をおしゃべりしている内に
 もう充分行った気になってしまった。
 替わりに喫茶店でコーヒーとパフェを食べた
 綾瀬クンが指差したのは古い知らない喫茶店だった
 暗い店内が少し明るくなった気がしたのは
 入り口の扉の上についたベルを鳴らしたことから始まった

 綾瀬クン、さっきの山
 やっぱり行ってみようか
 
 ―ハイ。

 小一時間ほどして、また同じことを言って
 また同じことをする。


 *


 もしもし、先生?
 今、何してるんですか あ、そうなんですか
 わたしね、今 若草山なんです
 え――って 近くに来たんで登っちゃいました
 はい、とても寒いですよ
 キレイです 
 一望ですから
 ハイ、綺麗に見えます
 振りませんよ、
 振りませんから、
 オーイ つって
 ハイハイ、振りましたから
 もう嘘ばっかり、はい、
 ちゃんと帰ります、
 はーい、また明日!













自由詩 呆日。 Copyright ヨルノテガム 2009-02-25 12:31:23
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