A fond, A fond,
藤坂萌子
A fond, A fond,
もっと 振って もっともっと
どこか遠くへいきたいな
おねえさんがそうつぶやいたのを聞いた時
世界には
どこか遠くがあるのだと知って
突然、彼女はあこがれの地を手に入れたのだった
甘美な言葉だな
知らなかった
気がつくまでは
どこか遠く、など
21世紀最初の10年の締めくくりに、
乙女たちのあいだでは、エコバッグづくりが流行中
巷には趣意趣向を凝らしたエコバッグが溢れていて
カラフル!だよ
みんな、にこにこしている
みつめていることしかできない
手に取らないようにしてきたものばかりが
順番にまちかまえている
注意ぶかく
わたしには、エコバッグに入れたいものがないのだと言うと
旦那さまが
一人ではないよ、
きみは、一人ではないよ、と云う
(とてもそうは思えない)
身体じゅうを振って
いつかの大音量の音の中が最高記録だったかもしれぬ
戻りたいわけじゃない
A fond, A fond,
もっと振って、もっともっと
どこか遠くへ
まだ、迷子になどなるつもりはない