没人形
智鶴

僕が糸を付けて操っている死体を見て
君は笑った
物言わぬ人形を我が物顔で支配する僕を見て
君は滑稽だと笑った

君が僕の腕にもたれて
裸のまま朝を迎えていた頃
その裏側で現実は
僕が思っていたよりも早く
絶望に近付いていたんだ

毒の味を知ってしまった僕は
揚羽を殺して
その蜜を吸っていた

美しい此処は
いつからか世界に見放されて
泣いている僕を置き去りにして消えた
何も感じないまま戦争の音を聞いていた
朝が寂しいことを知っていたから
何も知りたくなかったと泣いていた
僕の世界を閉じられないまま

寂しい灯りが君を消してしまう
それが怖くて
僕は唯一の灯りを吹き消した
何かを知って絶望するなら
いっそ何も見えなくていい、と
歪な鏡に笑いかけながら

僕を殺して
僕を操ってよ
指を動かせばその通りに踊ろう
踊り狂って涙を消して
遂には壇上で首を吊る
哀しい喜劇の主人公になろう

君が僕の世界を遮ってから
指先が死体のように冷たいんだ


自由詩 没人形 Copyright 智鶴 2009-02-19 21:18:18
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