〔草稿〕人形の季節
小川 葉

 
あなたはセーラー服であらわれた
わたしも学生服であらわれた
もう高校生ではなかったけれど
二人は約束の場所にいた

店にいた高校生が
みるみる生まれたばかりの子供になって
お父さんとお母さんと一緒にいた

えいこさんはあの頃みたいに若くて
厨房からは亡くなったはずの
旦那さんの声が聞こえていた

あなたはセーラー服がちょうどよく似合う
顔と体つきをしていて
わたしも学生服がちょうどよく似合う
顔と体つきだったのかもしれない
そんな冬があった

あなたは上智大学に入学して
卒業してからは外国語と関係のない生活をした
あなたがわたしと出会ってからも
外国語以外の言葉だけで二人はわかりあえた
ときどき言葉がなくても
わかりあえるような気がした

そんな時ふたりは
えいこさんのお好み焼き屋に
セーラー服と学生服であらわれた
ひとつの言葉も残っていないのに
言葉でしか形にすることのできない
記憶の中にしかわたしたちはいなかった

思い出ってこういうことよね

わたしはあなたを
人形にしてしまいたかった
 


自由詩 〔草稿〕人形の季節 Copyright 小川 葉 2009-02-16 23:10:03
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