螺旋のひと
恋月 ぴの
何故かあのひともそうだった
年上の素敵な奥様がいて
それなりに幸せな家庭を築いていた
そしてそんな男の軽い浮気心に惚れてしまう女がひとり
初めて出逢ったのは真冬に逆戻りしたような夜だった
綻びはじめた桜の蕾みは霙交じりの冷たい雨に凍えていた
探し求めていたひとにやっと出逢えたと思った
しがみついた胸板から懐かしい匂いがして
風邪でも引いてはと気遣う仕草に女の喜びを見出す私がいた
また来るからと額に優しく口付けて
商売女が堅気のひとに惚れる
そんなこと等ある筈は無いと思っていたのに
小さな約束でも守ってくれる笑顔は
男には心なんて許さぬと頑なな想いを翻させた
ひとりぼっちの寂しさが語らせる埒も無い身の上話なのか
それ故に終わりの無い物語のはじまりでもあったのか
行き場の無い欲望を吐き出すためだけにある粗末なベッドの上で
シャワーを浴びるのさえもどかしく互いの身体を貪りあう
陰核を執拗に舐るあのひとの舌先に耐えながら
私の唾液で濡れそぼったペニスを喉の奥まで咥え込み
両肘で上体を支えながら快楽を与え続けた
突き上げる腰付きの無慈悲さとおぼこ女のようなか弱い悲鳴
生まれて初めて喉の奥で受け止めた
淫らと滴る生温かい液体を薬指で拭いながら
惚れた男の子を宿すひとりの女の幸せを切に願った
久しぶりに臙脂色のストールを見かける
どちらから
そして、どちらまで
そう尋ねたところで果たして彼女は答えてくれるだろうか
春の陽気に散る花の美しさ想い巡らし