light the light
小川 葉

 
バスが終点に近づくと
乗客はわたしたち家族以外に
誰一人いなかった
息子が車内をみまわして
どうしてみんな座らないの、と
終点に着くまで
そんな不思議なことを
言い続けていた

誰もいない車内に
あたかもたくさんの乗客が
立ったまま席に座らず
そこにいるのが見えているような
おかしな言葉を
四歳の子供は平気に口にする

街で用を済ませて
私たち家族は
帰りは電車に乗って帰った

終着駅が近づいて
わたしたちが暮らす街が
窓の外に見えてくると
息子がこんどは

ぼくらが暮らしていた街だ
と言う
まるでわたしたちが
もうこの世界にはいないような
そんな不思議なことを
また言い続けている

電車を降りてから
すこし歩いて
家の鍵をあけて
玄関の照明のスイッチを入れる
家族の
命を灯すように

ぼくが光ってる
おかあさんが光ってる
おとうさんも・・・

わたしは煙草を切らして
途中コンビニに寄って
少し遅れて家に着いていた

息子が泣いていた
おとうさんが光ってない
おとうさんが
光ってない、と叫んで
 


自由詩 light the light Copyright 小川 葉 2009-02-15 23:37:06
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