夜明け氷
フミタケ
眠っているうちにどこかで何かが季節のトリガーに指をそえ
明確な透明さでもって入れかわっていく空気 大気
凍てついた日々はよくしたもので
人々には何かと集う理由があり
入り組んでいる関係と熱気が狂おしいほどであり
2月18日をもってそれが終わる音を僕はたしかに聞いたのだ
人々が散ったあとのガランドウへ春の風が吹き込む気配
2週間前に敷石の水たまりに生まれた夜明けの氷を
愛おしむように見つめて立ち止まってたあの娘は
もうすぐ福島の人になると言う
テーブルを前にむかいあっては営みの会話を重ねて
互いの想いの奥深くでふるえている何かについて口にする事はついになかった
いくつもの声が聞こえるけど
誰も姿は持っておらず
僕もあなたも存在しない会話を注意深く重ねて
記憶に残らないその場その場の言葉を舌に絡めては
僕は密かに沈黙の許しを請うていたんだ
季節が一切を押し流していった今
それでも思い出しているのは
いつかのあの時の彼女の指や、鈴を転がすような笑い声
選択の余地なくこの胸から目頭のあたりまでとどまりつづけて消えない
君が抱いたそのイメージの中の僕は誰だったんだろう
僕が抱いたイメージの中の君はだれだったんだろう
夜が底をつくまで、すすむ事ももどる事もできずにいて
夜が明ける街は氷の中の青と金色の世界
君との写真を額に納めたからさ
夜が明ける街は氷の中の青と金色の世界
青と金色の世界