うたう
かんな

朝陽が昇るまでのひと時は
忘れられない思い出を捨てるための
かなしい時間にならないといい
そっと歩き出していくには
ひとりでもふたりでも
優しさよりやさしい祈りが必要だから

眩しいくらいの朝やけの時間は
目を閉じても夢からはぐれないように
そっと誰かの手をつなぎたくなる
幸せを形にしたならいつも掴み切れない
だから薄っすらと現れはじめた影に
ひとすじの光で描いてみる未来

太陽もほんの少し立ち止まってみせる
絶え間なく輝いてほしい光は
現実と夢のあいだで
息切れた蛍光灯のように途切れて
でもそれはモールス信号のように
どこかに途切れない思いを送っている

突然の曇り空が思いを隠したら
どこからか蒸発したなみだは雲となり
しだいに落ちてきそうな上空を見つめる
この世界のどこかで握られた手と手が描く
幸せという透明な思いはあてもなく
誰かになぞられるのを待っている

雲の切れ間から現れた光の波にのる
どこかで手と手をとったふたりがいたなら
なぞられる形はあなたが想像してほしい
傾きはじめた太陽と出逢った白い月は
寄りかかっても交わらないから
きっといつまでも一緒にいられる

夕やみに包まれた空の下でうたう
そんな時だからやさしい言葉を
口ずさみながら口ずさみながら
見つからないから大切なものがある
空に輝く星をひとつ手に取る
そんな真似をしては掌をそっと見つめる
失わないものなどないけれど
消えない思い出がひとつ
星になった



自由詩 うたう Copyright かんな 2009-02-10 17:03:22
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