あまつつみ
鈴沖 雄太

――ほら、森がざわめいているよ、
  静かに、静かに

最初、の
一滴が
少年の上気した頬に落ちる


 (それから)


飛び立つ鳥の羽や
腐葉土の上に打ち捨てられた生物の死骸が
重く静かに膨れていく


 (そのとき)


私たちは/私たちの
清潔な部屋の中で
ビニール製の小ぶりな地球儀を
くるくる
くるくる
回していた


  「すりがらすの表面を、雨が伝っていくね」

   私はそう言って

  「すりがらすの裏面を、雨が伝っていくよ」

   ムームはそう言った


 (それから)


長い午後中
雨は降り続いて
少年は母の膝で眠り
死骸は膨張し続け
鳥は森の上を
ぐるぐる
ぐるぐる
回っていた


 (そのとき)


私たちは/私たちの
清潔な部屋の中で
透明な地球儀を覗き込み
アフリカや
ヨーロッパの裏側を
じっと眺めていた


  「ほらムーム、すりがらすが透けてしまった」

   私はそう言って

  「                   」

   ムームは何も言わなかった


 (それから)


雨はふいに降りやんで
私は/私たちの
清潔な部屋の中で
地球儀から空気を抜いてしまう
だろう

ムームは
籐椅子に深く座り込んで
もう眠ってしまった

――ほらムーム、森がざわめいているね、
  静かに、静かに


自由詩 あまつつみ Copyright 鈴沖 雄太 2009-02-10 13:56:55
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