あまつつみ
鈴沖 雄太
――ほら、森がざわめいているよ、
静かに、静かに
最初、の
一滴が
少年の上気した頬に落ちる
(それから)
飛び立つ鳥の羽や
腐葉土の上に打ち捨てられた生物の死骸が
重く静かに膨れていく
(そのとき)
私たちは/私たちの
清潔な部屋の中で
ビニール製の小ぶりな地球儀を
くるくる
くるくる
回していた
「すりがらすの表面を、雨が伝っていくね」
私はそう言って
「すりがらすの裏面を、雨が伝っていくよ」
ムームはそう言った
(それから)
長い午後中
雨は降り続いて
少年は母の膝で眠り
死骸は膨張し続け
鳥は森の上を
ぐるぐる
ぐるぐる
回っていた
(そのとき)
私たちは/私たちの
清潔な部屋の中で
透明な地球儀を覗き込み
アフリカや
ヨーロッパの裏側を
じっと眺めていた
「ほらムーム、すりがらすが透けてしまった」
私はそう言って
「 」
ムームは何も言わなかった
(それから)
雨はふいに降りやんで
私は/私たちの
清潔な部屋の中で
地球儀から空気を抜いてしまう
だろう
ムームは
籐椅子に深く座り込んで
もう眠ってしまった
――ほらムーム、森がざわめいているね、
静かに、静かに