友だちが欲しかった
小川 葉

  
友だちは
ついにあなただけだ!

と妻に言ったら
きゅうにあほらしくなって

けれど、四歳の息子に
まだ友だちがいないことに気づいて

お父さんと
友だちにになろうね

と言ったら
あほらしくもなくなった

けっきょくは家族なのだ

友だちが大切だぞ
と教えてくれたあの人は
けっきょく家族を大切にしなくなってから
すぐに事故にあって
たったひとりで入院している
友だちもお見舞いに来なくなった
と聞く

でも友だちがなかったら
出世にひびくわ
と妻が言うけれど
そんなものははじめから求めていない

結婚して家族になったのは
ほんとうは
友だちが欲しかったからだ
ただそれだけだ

逃げもかくれもしないで
正直にそう言うと
またきゅうに
あほらしくなってきて

何を今さらみたいな顔をして
わたしたちは
静かに見つめあって
微笑んでいた
 


自由詩 友だちが欲しかった Copyright 小川 葉 2009-02-07 04:02:18縦
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