永遠の塔 
服部 剛

もし(まことの人)がいるならば
一体、どんな面影の人であろう? 

彼は、この世の体という着包きぐるみの内に 
薄っすら透けた(もうひとつの体)を 
宿している。 

机上に丸い影を落とすティーカップを 
ティーカップたらしめているものは、 
一体何なのか? 

鏡に映る(私という不思議)を 
私たらしめる、背後のものは、 
一体何なのか? 

星の王子様は云った 
「本当に大切なものは、目に見えない。」 

中原中也は云った 
「名づけられる以前のものを、観る事。」 


目に見えぬものを、観る人よ 
あなたは風の言葉を翻訳し 
人のこころに灯をともす 
不滅の手紙を書くだろう・・・ 


耳に聞こえぬ声を、聴く人よ 
あなたは風の遺言を通訳し 
目の前で涙する哀しい人を 
不滅の両手で包むだろう・・・ 


宮沢賢治は
「南無妙法蓮華経」と今も呟き 

フランシス・ジャムは
「恵みあふれる聖母マリア」と今も呟き 


風になった詩人の魂は 
今日も何処かで 
人のこころの幸いを願いながら 
(風の両手)を 
そっと重ね合わせる 

祈りはいつか 
何処までも積み重なり 
大地に立って仰いだ空に 
吸いこまれ、昇りゆく 

どんなに時が流れても 
決して消え去ることの無い 
仄かなひかりを帯びた 
(まことの人)
のように独り立ち 

天と地のあわいに透き通る、永遠の塔。 








自由詩 永遠の塔  Copyright 服部 剛 2009-02-07 03:22:59
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