君と80cm
フミタケ

泡立つ日々が流れ込んだマンホールの軋みが
白い歯に残ったメンソールの味までその振動を伝える
語りたい人が誰なのか
語りたい事がなんだったのか忘れてしまう頃に
マンホールへ流れ込む泡立つ日々は海へ流れつき
夜はあける

また
9時から17時までの世界がふし目がちに立ちのぼる
(大昔から何もおこらないと決まっている世界が立ちのぼる)

幼なじみも
兄弟たちも
昔話はやめてしまった
家族も旧友たちも
思い出話をやめてしまった

環境汚染の報道がいつもいい忘れている事は
1970年代以降の子供たちはみんな
インストールと
アンインストールの世代だってこと

きれいに爪を切った左手の指と
ヤスリで削った右手の長い爪を
ゆっくりと時間をかけて点検する僕は今
君と80cm
60インチのハイビジョン液晶モニターに
僕たちが大好きなホラー映画を映しながら

泡立つ日々が流れ込むマンホールの軋みに
悩まされる近隣の市民
その誰かの苦情に悩まされる役所の職員たち
モヤに霞むはるか北の山影をすかして
高圧縮された病が内部へ潜り込む
やなか珈琲の香りが季節の風とともに流れ込む
地下鉄千駄木駅を滑りのぼって
都市の真昼を切り取った田舎の夜へと避難し
ガットギターのテンションコードの響きだけに神経を集中し
そこからもう一度何かを
ザラついた手触りのこの現実へ持ち帰るという事が
実はそれほど簡単な事であり
有機作用して煙と化した現実はもはや無意識のため息ひとつで
想像する以上に姿を変えていく
世界よ
一服いかが?
でたらめな歴史の果ての泡立つ日々が流れ込むそこは
いつも軋んでいて
海に流れつく頃
夜はあける


自由詩 君と80cm Copyright フミタケ 2009-02-06 23:57:25
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