飾り窓のひと
恋月 ぴの

お茶を挽く

この歳になってそんなことばの意味を知る

四畳半にも満たない小さな部屋
気まぐれなエアコンの吐き出す乾いた暖気が
枕元に畳んだ洗いざらしのタオルへ靡く

恋人にしてあげてるでしょ?

何十何百人もの女の子に同じ言葉を吐いてきたのだろう
親しげそうな口調でありながら
断崖絶壁で決断を即すような冷徹さを滲ませ

君のばあい、清楚な感じなんだしさ
もうちょっとなんだよね
ナンバーワンで稼ぐのだって夢じゃないのにねぇ

射精を即す陰嚢が小さく引き締まり
これ以上膨らみきれない程に膨らんだ亀頭は滴を垂らす

口の中に出されるのが嫌な訳ではないけど
どうしても亀頭から口を離してしまう私がいて
ちいさな呻き声を合図に
尿道から噴き出した青臭い精液が男のひとの下腹部を汚した

あの臙脂色のストールって
遠いところへ行ってしまった娘さんからのプレゼントなのかな
今日も見かけた老女の丸い背中
止むことを知らぬ繰言が私の耳元まで聞こえくるようで

誰かさんって私の母、それとも私自身なの

来客を知らせるインタフォンが私を現実に引き戻し

いそいそと身支度を整える春売りおんなの襟足は
情けなさとは対極の心模様に堕ちて酔いしれる





自由詩 飾り窓のひと Copyright 恋月 ぴの 2009-02-01 21:17:44
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