羊羹

ふたりで羊羹に入ろう
思い立って三軒目のコンビニで見つけた
消しゴムふたつぶんくらいの小さな羊羹を
にゅるっと皿の上に出す

安物でいいのかと聞くと
羊羹ならば構わないと言い
ゼリーではだめかと聞くと
透明すぎるのだと言う

羊羹は独立していて
コンパクトで
しかも甘い夜の固まりなのだと
彼女は真剣な口ぶりで語り

午前一時の汚いワンルームの
同じ毛布のなかの僕たちの体温の
離れがたさをもってすれば必ず
羊羹に入れるという信念を告白する

それから羊羹はそのままに彼女を押し倒し
一段落するとふたりで羊羹を見つめ
次に抱きよせるともう
羊羹のなかで

きっちり密着した彼女の肌のほか
耳も鼻も目玉の上も
尻の溝まで夜で埋められ
動こうとすると夜ごと揺れた



目が覚めると羊羹は皿の上にあった
彼女は僕の腕のなかで寝がえりをうち
カーテン越しの日ざしに腕を伸ばして
羊羹をつまみ一口で食べた


自由詩 羊羹 Copyright  2009-02-01 02:07:13
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