あなたは僕の
小川 葉

 
はじめて会った
日のことを
よくおぼえていない

それくらい
はじめて会ったような
気がしなくて
その日からぼくらは
いつも一緒だった

友だちだった
恋人ではなかった
お互いに
恋人ができても
僕らは友だちとして
恋人みたいに約束して
駅前で会い
居酒屋で飲んで
踊りになんか行ったりして
カラオケを歌い
十二時を過ぎると
まわりには恋人しかいない
そんな店で
ブラッディマリーを飲み
割勘だったのに
店員が
「おすばらしい夜を」
なんて言うものだから
僕らは噴きだして
それからいつも無口になって
かならず手をつないで
歩いて帰った

僕らは卒業し
子供ではなくなり
働きはじめ
それでも何度か会い
会うたびに
その回数は減っていった
僕らはにわかに
大人になりはじめていた

僕らはそれぞれ結婚した
それでも電話したり
「おすばらしい夜を」の店で
会ったりさえもした

ある日
前触れもなくあなたは消えた
電話はもう通じなかった
空家になっていた
友人たちに尋ねても
誰も知らなかった
僕の中であなたは
あの日死んだも同然だった

と、ここまで書いて
この詩を今
あなたが読んだなら
きっと笑い飛ばすに決まってる

ふと、あなたは
僕の目の前にあらわれて
きっと笑い飛ばすに決まってる

だからもう
僕は書かない
あなたが過去の人になってしまった
というようなことなど
僕にはこれ以上
書けないのだから

笑い飛ばして
それから
まっすぐ僕の目を見つめて
泣いて抱きしめてくれるなら
僕は
あなたなしでも
やっていけるから

あなたにはじめて会ってから
二十年が過ぎていた
あれからずっと
あなたは僕の心の中に生きている
 


自由詩 あなたは僕の Copyright 小川 葉 2009-01-31 00:09:07
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