素描
佐野権太

夕暮れの水位は
さざなみ
浅い胸に、さざなみ
空白で埋めたはずの
小さな画布が
素朴に満ちてゆく

海面に浮かぶ
危うい杭に
うずくまる鳥の
膨らませた羽から
零れる文字のやさしさを拾って
あのひとを素描する

かきあげる髪
笑う、声の光
そうしたものに
色をのせれば
すぐにあふれてしまうから
飛翔するあのひとの
美しいかたちを
細く、願う

日没までの僅かな時間
少しずつ失われてゆく
そうして
少しずつ慣れてゆく

凪いだ海の
遠い境界のゆらぎ
目を細めて
仰いだ空が
じっと青をこらえている






自由詩 素描 Copyright 佐野権太 2009-01-29 13:59:04
notebook Home 戻る