トンボ
小川 葉

 
お見舞いにいくと
ベッドと見まちがえるほど
平らになっていて
痩せていた
祖母と手をにぎりあって
見つめあっていた

帰り際に
手をふった
なるべく笑顔で
いつものように

平らなベッドから
小枝のような
腕がのびてゆれていた
祖母の指先に
トンボがとまって
トンボが
逃げてしまわないように
その命も
なくなってしまわないように
そっとつかまえると
祖母は消えてしまった
トンボを残して

「いつもさよならの繰り返し」

祖母が最後に言っていた
言葉の意味

祖母は後妻で
こどもがいなかったから
孫の僕が
生きがいの
すべてであったこと

僕が家を出て
お盆とお正月しか
会えなくなってしまったことを
悲しんでいたこと

「いつもさよならの繰り返し」

僕はトンボを自由にして
もう繰り返すことのできない
祖母の命に
最後のさよならを告げた
 


自由詩 トンボ Copyright 小川 葉 2009-01-29 01:13:20
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