肉だけがある言葉はない
世古 和希

肉が、声を、発する、ただそれだけで、わたしたちは、ひとまえではだかになることをやめた。

ものが、音を、たてる、物音が立つ、立つ、物音が、人以前が、立つ、それだけでわたしたちは、もう、こどものように怯えていた、あのころがなつかしい。

耳から溶け出る脳の言葉も、オオカミになったつもりでいて、羊のように、小屋から離れようとしない、それもまた、ふしぎだ。

ふしぎだ、脳の言葉も、肉の声も、どこにもないのに、わたしたちにはある、わたしたちだけにしかない、わたしたち自身がそうだからだろう、わたしたち自身が言葉でできているからだろう、ろう、から、だろう、わたしたち、わたし、たち、だけが、だけ、それだけ、これだけ、わたしだけ、が、わたしだけが、こうして、むこうでも、こっちでも、いて、て、こうして、そうして、わたしだけがいくらでもある、いくらでもある、わたしだけが、ふしぎだ。

声を発する肉が、その肉も二重に見える、
音をたてるものが、すでに音にとけているのに、
耳から飛び出す脳のことも、もう、わすれよう、みんな、わすれて、

ものだけが、そこにある、
肉だけが、わたしであって、
そこここにある、あった、あるだろう、そう……どうでもいいのだ、けど、もう?


自由詩 肉だけがある言葉はない Copyright 世古 和希 2009-01-27 19:55:04
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