電話
舞狐

懐かしい声から
その表情が見える

突然消えたその人は
数奇な人生を送り
普通の人生では
見ることのない風景の中に生きた人


老いた目蓋の奥に
鋭い瞳を覗かせて

奥底から笑わない人


母が死んだんだ
ぽつりつぶやき
笑い話を含めた会話に

私は胸が痛かった

あの人の悲しさが
受話器からあふれて
私の胸を叩く


抱き締めてあげられない
壁と距離に邪魔されて


私は叱咤するかのように
貴方の不在は淋しいと


ただ
それだけを伝えた


暖かい春には
顔を見せるとだけ言い
受話器を置いた



つながっていない受話器から
まだ
貴方の悲しみが
溢れてとまらない


自由詩 電話 Copyright 舞狐 2009-01-24 23:06:28
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