アンテ


次はあなたの番です
鳥が丸い目をくるくるさせながら言った
そんな なにかのまちがいだわ
だってわたしまだこんなに若くて元気なのよ
反論しても無駄だった
鳥は粛々と書類を広げて
わたしの名前を指し示した

人は決まった順に死ぬ
鳥がまちがうことは
絶対にない

あと何日あるの
鳥の視線が架空の時計を探して彷徨った
七時間二十四分三秒です
そんな 半日も残っていないなんて
鳥は連絡が遅れたことを丁重に謝ってくれた
でももちろん時間が延びるわけじゃない
とにかくあと七時間二十四分なのね
二十二分四十八秒です
と鳥が訂正した
わたしは絶叫して電話に飛びついた

あいつはつかまらなかった
鳥保険に加入していないから
自分で探すしかない

セックスに耽るのは
あまりお勧めできませんよ
鳥が親切に忠告してくれた
身体のなかに杭が残って
現実から離れられなくなるのだそうだ
まあ みなさん後先考えずに
あとで後悔するんですけどね
しゃべりつづける鳥を
布袋に詰め込んで
書類をキッチンで燃やすと
一見なにもなかったことになった

外に出ると
月の光が大地を包み込んでいた
ほかに明かりはひとつも見あたらなかった
暗闇をとにかく進みながら
あいつの名前を何度呼んでみても
返事はなく
空気がビリビリと震えるだけだった
空の高いところを
たくさんの鳥が舞っていて
くぅるるる
時折かすかに鳴き声が聞こえた
電話をかけつづけるべきだっただろうか
待っていればあいつの方から来てくれただろうか
そんな弱気を追い払って振り返ると
かすかな部屋の明かりが
何度かまばたきする間に
ぷっつりと途絶えた

このまま
死んでしまいたくない

涙がだくだく流れだして
一歩も進めなくなった
なぜ死にたくないのだろう
なぜあいつに逢いたいのだろう
そんな疑問が順番に浮かび上がっては
わたしの外側へ出ていった
月を振り仰ぐと
澄んだ光が降りつづけていた
目を閉じてじっとしていると
静かな眠りが訪れた
空の高いところから
くぅるるる
乾いた鳥の鳴き声が聞こえた

気がつくと
明るい陽射しに包まれていて
芝生に寝転がったまま
となりで眠っているあいつの寝息を聞いた
ここが夢のなかである証拠に
空には鳥が一羽も見あたらなかった
何度呼んでも起きてくれないので
身体をぴったり寄せて
息をひそめて鼓動を聞いていると
気持ちが落ち着いた
鼻をふさいだり頬をつねったり
悪戯するうち
涙があふれだして
止まらなくなった

もう時間ですよ
鳥の声に目がさめた
月は地平線ちかくまで傾き
空はすっかり藍色に変わっていた
いつの間にか
わたしの背中に小さな羽が生えていて
羽ばたかせると身体が軽くなった
わたしもう死んでしまったのだろうか
鳥はうなずいた
さあそろそろ行きましょう
鳥に続いてわたしも空に飛び立ち
螺旋を描いて昇っていった
大地は靄につつまれて
ひっそりと寝静まっていた
あいつを探して叫ぶと
くぅるるる
鳴き声が響き渡った
鳥はみるみる上昇してほかの鳥と合流し
見分けがつかなくなった
くぅるるる
何度も何度も鳴きながら
わたしの身体は昇りつづけた



自由詩Copyright アンテ 2003-09-19 01:15:47
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