ゴシック・ロリータ
氷魚

いつのことだったか
夜になると冷え込んでくるような
少しさびしい季節の
もっとさびしい時間
黒いドレスを着こんで
雛鳥のように歩いていた
白い脚のふくよかな
可愛らしいお人形さんに
軽口を叩いたことがあった

可愛子ちゃん
あなたには
まだ桃色のおリボンがお似合いよ
大きくてひらひらした
そういったもの
頭にちょこんと乗せては如何

お人形さん
黒いドレスを着て
黒いお粉で目元を飾った
可愛らしいお人形さん
歌うように答えた

好きだけれど
私には似合わないの
私は桃色よりも
もっと生々しい色
耽美で
眼を伏せた淑女のようで
奥ゆかしい
そして
苦しみを
残忍な欲望を知っている
そういう色が似合うの

わたしは子供じゃないわ

お人形さん
艶々の巻き毛を垂らしたお人形さん
白い傘を綺麗に畳んで
底の厚い
はとめのついた
黒い革の長靴を履いて
通りの向こうに消えていく

耽美で
奥ゆかしい
苦しみ
残忍な欲望
それらを
一身に纏おうと背伸びをする
可愛い可愛いお人形さん

背伸びをして
ちらりと覗いた膝がしら
レースと北風にくすぐられて
ほんのり染まった
その桃色が
一番似合っていた
お人形さん




自由詩 ゴシック・ロリータ Copyright 氷魚 2009-01-16 23:20:05
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