ライオン
しゅう

ライオン ライオン
たてがみなびかせて
背筋を伸ばして街を歩く
右も左もわからない街で
値札のついた肉に手を伸ばす

檻から出て初めて見たものは
凍える冬枯れの街の景色
霜の降るたてがみ、白く染まり
荒い息に混じる、深いため息

思い出せる最後に聞いた言葉
いつかまた会えると信じている
何度かの冬を越え変わったことは
巻かれた首輪と錆付いた言葉

歩き出す
爪にアスファルト深く食い込む
血がにじむ
いつの間にか人の群れに流される
握手かわす
たびに邪魔になる、鋭すぎる爪は
春になれば、丸く曲がり、削り取られた

食べたい 眠りたい
キスしたい 夢見たい
星の降る野原がもう一度見たい
吼えたい 走りたい
あなたに 会いたい
この街じゃ爪には何もかからない

ライオン ライオン
探す青い鳥
溶け落ちる首輪に花の冠
短い 短い 時間が足りない
夢の中くらいは自由に走りたい

南の島に逃げる渡り鳥
磁石の針はとうに空回り
満ち足りた日々の終わりの光
抱き、波打ち際を越えたかった、二人で

働いて硬くなった石のような手
甘くてやわらかいお菓子のような手
刻まれたしわも、艶やかな匂いも
今は美しすぎて思い出せない

飛びたい 飛びたい
鳥みたく飛びたい
見上げる空までは爪は届かない
行きたい 行きたい
遠くに行きたい
あなたの体温に近づきたい

ライオン ライオン
輝くたてがみは
今では見る影もないけれど
歩き続けて眠るその姿
まんまる銀色の月みたいよ

ライオン ライオン
たてがみなびかせて
背筋を伸ばして、今日も歩く
右か左かなんてもう関係ないから
枯れた花の冠をかぶり続けて
彼は歩き続ける
君と歩き続ける


自由詩 ライオン Copyright しゅう 2009-01-10 09:34:11
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