沈黙の質量
藤原有絵

「迷っていたけれど
そういうふうに
生きていく事にしました」

密やかな決意を
胸の中で繰り返し
そこへ行き着いた
あなたの思いに対し

親指は言葉を探せなくて
携帯電話を閉じました


わたしはそのとき
すっかり寒い色をした
プールの飛び込み台に座って
ドーナツを齧っていました

少しだけわたしの事を話すと
なんとも気ままで
華やかさに欠ける日々です
それもまた
迷いながらも望んでしまった
わたしの暮らし方


ほら やっぱり
あなたの決意に
添える言葉なんてないんです

言葉が無い事が
あなたの新しい日々への
わたしの思いです

あなたもきっと
眩しい事に不慣れだから
戸惑う事があるのでしょう

ほんの微かな目眩とか
その奥の静かで確かな興奮とか
一日ずつ捲る世界とか
すこし想像していたら

最後に見た
あなたのしなやかな背中

どんな顔をしていただろう
ずっと考えてたけど

知らなくても
この頃なんとなく
わかった気がして

それこそ言葉にしなくていいことだと
ようやくあなたを想うわたしです







自由詩 沈黙の質量 Copyright 藤原有絵 2009-01-06 16:55:51
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