やさしく眠る/急いで起きる
木屋 亞万

砂丘から砂が流れて来たら
それは夜の始まり

私は眠る準備を始める
天井を通る赤い水流を
電灯から白い汁として引き込む
煤けた電球の先から、光りながら
とめどなく溢れる白い液は
黄色い砂と溶け合って
きめの細かい渦を作っていく

それは太陽が沈むだけの夜に
備えるための準備ではない
鼓動の停止を意味する夜に備えるのだ
どのような惨酷な急停止でも
どのような安らかな眠りでも
終わりであることにかわりない





乳白色が夜を守り抜いて
いつの間にか窓が白むと
白い砂山はしゅわしゅわと消える
その中で浮かんでいた私は
尻を床に打ち付け目をさます

始まりは慌ただしい
緩んだ電球を急いで締め
窓を全開にして
溶け残りを吐き捨てる

一日が始まったら
私には
夜になるまで
眠る暇はない

砂丘は時計の底へ消えた
赤い液が空の底に溜まり始めて
すぐさま青く反応していく
部屋から吐き捨てた雲を
しゅわりしゅわりと浮かべながら



自由詩 やさしく眠る/急いで起きる Copyright 木屋 亞万 2009-01-05 01:17:42
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