破瓜は絞首に似ている
アオゾラ誤爆

きみはひどく咳き込み
すぐに踞った
今日は風がつよいね
手をつないで
髪を
なでた





すきだよ


あまく
湿った声は遠く
いつも
おびえているみたいだった
名前を呼ぶのも
思いを確かめ合うのにも
いつも同じかたさで
胸をひっかかれて
いるんだ
そしてわたしは凍る
鉄棒のように
つめたくなって
転んでしまいそうになる
だからもっと
ちゃんと
手をひいて
そばに


あ、
そこにいる
なにかべつの
いきものが
わたしと、
ここにいて
とけて
しまいそうで
うずく
あ、
ふれて
ふれあって
いるね


ねえきみ、
出来るだけ
丁寧なしぐさがいい
ぼんやりとしたイメージよりも
痛いくらいの現実を見せて
この視線を合わすなら
やさしいでしょう



ここにある
唯一は
なんだろう
限りなくしずかにある
地平線の円みを
体感するふたつの核
くすぐったくて
泣きたくなるけど
笑顔をつくって
息をもらした
すきだよ
って
言えないから
こぼれそうになってしまうね
いますぐにでも
心臓から背骨から
なにか
わたしのようなものが――





洗われていくような
細やかな質感が
表面でゆれている
あふれそうになって
そのたび
胸の奥をつんと刺す
ほら
いまも感じているよ
だっておそろしいくらいに
いつだってまぶしいんだ
きみは

濁りのない
水のようなすべらかな温もり
そっと指先で叩くと
きみの顔がぼろぼろと崩れた
小さくふるえ
波立って
ゆっくりと浅くなる
ここの均衡を保つのに
わたしはまた泣かなくては
いけないだろうか





底が、
もっと深くなる
育つに連れて
届かなくなる
その
切っ先で頬を撫でたら
駆け出してしまいたくなるよ
こんなに近くに
重ねているから
引力みたいなんだっだ
こんなにも生々しく
ひびいていて
すこし切ない
滲み出る血のにおいに
鳥肌が立つけれど
あふれさせてしまわないで
どうか



世界でいちばんあたたかな
動物になって眠れ



冬は寒いから
そっと寄せ合う呼吸がいとしい
何よりも
接しているという感覚が
たしかで

すき
だいすきだいすきだいすき
すきなんだ

あらゆる苦みや、痛みを
飲み込む覚悟をきちんと済ませて
それから融け合うのがいいね
なんて冗談で笑ったそれは
嘘なんかじゃなかったけど
だまっている
上昇と停滞を
くりかえして
もういっぱいだ
いっぱいになってしまうんだ
わたしは



かすかに
ふれるだけの合図を
どれほど感じているのだろうか
やさしく、
傷口に
飽和するのを待っているよ
それはとても透明な希望
やわらかで

――水の音がしている
まぶしい
春の庭に
ころがっているような
微弱な反応を見せる
きみ
想像もしていなくて
短距離走が苦手だった頃に
戻ったような思いがして
胃や胸が熱くなるのを
感じている





窒息
のような刺激で
きつく、しめられ、ほどかれて
白熱灯の熱さでもって
きみを食べて
しまう
わたしが


がまんして
痛いのを
息を止めてくちびるを
かんで
爪を、
立ててもいいよ
すきだから
ねえ
すきだよ




平らになった湖面を
破く寸前でふるえている
きみはためらいがちに
息を吐いた
静かに目を伏せるけど
わたしはすべてを知っている
みたいだ




壊していいのだろうか




自由詩 破瓜は絞首に似ている Copyright アオゾラ誤爆 2009-01-04 02:31:40
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