あけおめ
木屋 亞万

数十年もの間、腐れ縁の切れない幼なじみがいる
だから数十年間、年賀状を出し合っていることになる
干からびたミミズのような字で
「さかたあけおくんへ」と書いた記憶がある
親同士の付き合いも古くからあったようなので
赤ん坊の時から写真付きの年賀状を
交換しているかも知れない
そんな幼なじみの馬鹿野郎からの年賀状は必ず
わが家に届く年賀状の束の一番上に挟まっていた

郵便屋さんの粋な計らいだったのかもしれないが
私に取っては要らぬお世話だった
母さんが年賀状の束を郵便受けから持ってきながら
「あら明雄君は今年も一番上ね」と言って笑うのだ
それが私はとても不愉快だった
「へぇ、そぅ」と無関心に答えながら
腹の底では「明雄め」と怒りを募らせていた

しかし高校に入った頃私は見てしまったのだ
部活の友達と初詣に行った帰りだった
わが家の郵便受けを物色する明雄の姿を見つけた
彼は郵便受けの道路側の投入口から太い指を
不器用に動かしながら年賀状を押し込んでいた
明雄が上に来るのは偶然ではなかったのだ
私は「明雄め」と少し彼を可愛く感じた

明雄が私より先に大学合格を決めた年には
上から目線の年賀状の文面に「明雄め」と悔しがったし
私が先に製薬会社の事務に就職が決まったときは
大学院に進むあいつを世間知らずの「明雄め」と
新年早々馬鹿にした

毎年毎年、略語ブームで「あけおめ」が
浸透するずっと前から私は
年の始めに「あけおめ」とつぶやいていた
しかし今年からはもう
明雄から年賀状は届かない

そんなことを思いながら
真新しい郵便受けを開くと
家族と暮らしていた時よりも
量の減った年賀状の束がある
その一番上には見馴れた文字で
「坂田千鶴子様」と書かれた年賀状があった
嫁に年賀状を書く馬鹿がどこにいる
おけおめ


自由詩 あけおめ Copyright 木屋 亞万 2009-01-01 02:55:41
notebook Home