釣り
K.SATO


ビャーっと貫く夜の 闇の中へ懐中電灯
透明にすかしたラインを スイベルに通し
リールをガチリと巻き取ると ふっと一息
でも足を立て 振ったロッドで もう一投

光が差し
床を やがて11時の足先に行く
遠い麓の山から 昔の僕に降りてくる 風
でもザラザラ
僕の皮は ザラザラの皮膚炎の記憶を
宿している

きらきら・きらめくミノープラグが
こごえる思いの
夢の中 らきらき・とスティックの たゆたいの中に落ちていく

僕は 山を見る子供だった
かぶさった瞼を でも あの日 目や
見えた景色に抱いた けれど今日も 目
光だけの空っぽの頭

チャプリ、チャプリ 小波のする 角
声がしていた 特に流していなかった 
小田、和正…か
帰り道へ続く 歌のライン
「三菱プラント」の
大きなタンク
木々と格子の向こうに
ナンバーのついていないBMWがずらり
ベージュとイエローの光 内部の釜 深夜でも作られる鉄
うずたかく黄緑を積み上げた さびついたコンテナ
地面から微かに生えた草
大きな木箱には 斜めにU.S.Aのプリント
食べたことのある菓子の袋
チョークで何かを意味したライン
8/21…3・2・52……
時折数字がある。

まるで沈んでいくよう…
港は広く 歩いても歩いても足ばかりが疲れる
出光の化学コンビナート ゆらめいて停泊した小船を
釣れない男の影が行く
ララと煙突から紫色の煙 モクモク…
ララララ君は…
小田さんの透き通ったささやきが 黄色く

ススキの揺れる湾口で
僕の皮膚に
カチカチと揺れる ロッドの先
僕は目だった

重く響く、エンジンの音
キーを回して しばらく車を温めよう。
海の メタリックブルーカラー
きらきらした夜が 香水に 現実の狭間みたい
ドライブに入れる
パサパサと蝶が鱗粉を様々に散らす
ぼやっとマフラーが吐く
ラジオのボタンを押しながら 木枯らしの縁側を
様々に 鼻をくゆらすたき火かガスか でも
曲名はなにか忘れた ああ 流れて
車は止まった
僕は赤の信号機の目だった




自由詩 釣り Copyright K.SATO 2009-01-01 01:59:44
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