(無題)
キキ

スニーカーのひもを結びなおして顔をあげる
あたたかい冬の日に遠い風が吹き
何度でもほどけていくこと
立ち止まって教えてくれる、ひと
あれから、
の起点が見つからない
迷子の羊が横断歩道を渡っている
羊信号は青だから
その背で、やわらかい毛に頬をうずめて
安心しているヒトの仔
ときどき寝返りをうつように首を回し
あの雲の行き先を確認する
星のようには
いま在る場所を教えてくれないのが
取り残されていくようなのがよくて
もう自分ではどんな出来事も結びなおさないと決めた
肉食の地平で
アフタヌーンティの
よい香りがする
カップとソーサーのぶつかる音で
もうすぐやってくる獣の影を知らせる
地面に両膝をつき
つめたさをがまんしながら見上げる空の青さに
前髪を揺らしていく風はあたたかく
あれは、と
いろいろのものが横切っていく
わたしを置いていく
いろいろの、
わたしはこの、
スニーカーを脱いだとしても
スニーカーではないものを
置いていく術を手に入れたくて
氷が溶けたあとの地面に両腕をうめるのに
忙しいので
わたしに代わって
なんどでもひもを結びなおしてくれるひとを
待っている


自由詩 (無題) Copyright キキ 2008-12-28 22:17:15
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