風は吹いているか？

生きもののうたを
歌ったことは？


同じＫＥＹばかり繰り返し
打ち込んでいないか？


晒されていたい。
うずくまって。
化石したと
言わんばかりに。

ぎりぎりのせめぎ合いの瀬戸際では、
ささいなことが問題になる。
身体に硝子を嵌めこめるか。
暗い窓から何が見えるか。
ひとつのうたに
きみをまとめることが
できるか／できないか。

できる事はもう、
この手の犯す過ちだけと知って。
「考えられないもの」を
作り出したいこの手のために。


風は吹いているか？


居るのは午前３時、
酸素のいちばん深いところ。
子供みたいな精霊や
プラスチックのがらくたと
馴れ合うのにいいところ。
土と暗闇と、炎と水とが入り混じる、
街の底の奥底。
きみの樹形（受刑？）図の記憶、
終末の先−記憶、　　　　　　　　　※
地軸を轟かせる合唱隊群、
見えないはげしい動感に包まれたまま、
ねえどこまで行こうか。
蛍光みどりに光るからだの、
架空のあのひとの架空の顔に
カリウム不足の涙が流れる。
延髄を打ち抜かれたのが
５分前だよ。


「…は吹いているか？」

「…は…」


まだ目覚めている？

身体が動くうちに
確かめたほうがいい、


右手は持ち上がるかい？
上体は？
指で瞼を触れる？
手で果物を掴めるか？
吐く息で窓は曇るか？


※岩成達也「徐々に外へ」より

初稿　1994/06/14
改稿　2003/09/16