海に沈んだ漁師たち
ろくましん

海に沈んだ漁師たち
対流のエスカレータに乗って
しばらくぶりに海面に出るとしたら
嬉しくなって波の間に間に手を振る気持ち
ぼくには分かります

海の深さと宇宙の深さは
比べものにならないけど
ぼくが海に沈んでいく姿は
銀河の彼方に流されていく
宇宙飛行士のそれに近い

たどり着いた海の底は
目くらのくせに電光ネオンの
気味の悪い深海生物たち
ぼくを盛大に出迎えて

「ちょっと君、その変な触覚でぼくに触らないでくれないか」

ところで、面白い話をしましょうか?
冬の海に落ちた漁師を助けるには
長い柄のついた刃物で体を引っ掛けるそうだ
上手く引っ掛かれば命は助かる
けれども鋭い刃が突き刺さるので
腕や足の一本くらいは使い物にならなくなる
当たり所が悪ければ死ぬこともある

でも、
たいてい刃物はむなしく空を切り
大急ぎで舵を回して戻って来ても
冷たい北風とほぼ零度の海水で
凍った体は海に沈んでいくそうだ
下へ、下へ

君なら、どっちが良い?

冬の海が黒い理由は知ってる?
海の黒はプランクトンの黒
冬の海は対流が起きる
海面で冷やされた海水は海底へと沈んで
海底で温められた海水は海面へと浮かんでいく
この対流がプランクトンに豊富な酸素と食べ物を供給する

さて、無駄話はこれくらいにして

海底に沈んだぼくは
深海生物の餌食になるかと思いきや
危ないところで対流のエスカレータに乗って
ふたたび海面へ上昇をはじめた
海に沈んだ漁師たちと一緒に
上へ、上へ


自由詩 海に沈んだ漁師たち Copyright ろくましん 2008-12-25 17:58:58
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